2020年5月16日(土)新宿BLAZEにて5回目のワンマンライブを開催予定だったVSingerのAZKi(あずき)が、新型コロナウイルスの影響を受け、代替え公演として配信限定のワンマンライブ『AZKi 5th LIVE R.I.P AZHOOD』をニコニコ生放送で開催した。本公演は、ニコニコ生放送に加え、bilibiliやYouTube(※冒頭のみ)でも放送された。
bilibili限定の歌枠配信やSorAZでのゲーム配信、新曲のリリースなど、自粛期間中もやれることをを精力的に行ってきたAZKi。7月に配信ライブの告知がされる前から頻繁に行われた歌枠では、ライブができない状況下でせめてものパフォーマンスと受け取ることもできる反面、中止になってしまったライブへのAZKiなりの執念と解釈していた開拓者も多かった。そして満を持して発表された配信限定ライブ『AZKi 5th LIVE R.I.P AZHOOD』。AZKiがこのライブで何を伝えたかったのか、そして開拓者が何を感じたのか、AZ輪廻から約7ヶ月の時を経て、『#開拓者全滅』の答え合わせが決行された。
暗闇から白いスポットライトが散々と輝く中、ステージ上にAZKiの後ろ姿が浮かび上がる。重低音のバックミュージックから徐々に姿を現す彼女と、観客席に夥しい数のペンライトがくっきりと映り込む。SE『Overture』から多彩なビームが飛び交う中、音楽が鳴り止むと同時に『AZKi 5th LIVE R.I.P AZHOOD』の文字が現れる。この日VJとして参加したchaosgroove氏の本気が序盤から垣間見える。
重低音が鳴り響いたOvertureからは想像できないほどの優しいピアノがこぼれだすと、「さぁ、始めましょう!」の言葉と同時に振り向くAZKi。開幕披露した『ちいさな心が決めたこと』は、AZKiが初めて作詞作曲を担当した楽曲であり、初のフルアルバム『without U』の収録曲。本来AZKiの意志や決意が詰まった前向きな曲だが、この日ばかりはリアルにこだわってきたワンマンライブから、なかなかライブができず、配信ライブを決行するまでの葛藤を歌っているようなストーリー性を感じた。
カラフルな演出と軽快なロックナンバーを小刻みに揺れながらAZKiが『虹を駆け抜けて』と『さよならヒーロー』を歌唱。作り込まれたMVを全面に活かした映像演出と、AZKiの感情の乗った歌にいつもの安心感と新感覚が入り交じる。『#開拓者全滅』を決行するかのごとく、序盤から力を抜く様子は伺えない。幅広いステージの上を優美に、力強く歌い上げる姿が印象的だった。
「張り切って全滅していってください!」と、全力のテンションで語った最初のMCでは、この日が待ち遠しかったと気持ちを告げた。そして、『フェリシア』『猫ならばいける』とポップなナンバーを披露。甘い歌声と無邪気に動き回るAZKi。MCを挟むごとに違う表情を浮かばせるセットリストと、歌で感情表現を得意とするAZKiの合わせ技が配信ライブでも炸裂する。
「ここからは踊れる曲を続けて歌っていきたいと思います」と、淡いイントロと優しい青のライトが煌めく演出から『Midnight Song』『Take me to Heaven』『Reflection』を続けて披露。Usagi ProductionのメンバーであるTAMU氏、Batsu氏、D.watt氏、そしてKABOSNIKKI(TEMPLIME)氏が手掛けたこの3曲は、AZKiを新境地へと導いた楽曲だ。AZKiは左右にゆったり揺れながら、気持ちよく音に乗り、会場内をクラブの様な空気感を作り上げていく。フルアルバム『without U』を皮切りに、新たな一面を見せてきたAZKiだが、この日ステージ上で見せるステージングは、クラブミュージックの楽曲でもAZKiらしさを一切崩さなかった。
続けて軽快なリズムと可愛らしい映像が開拓者の意識を奪う。間奏中に手拍子やシンガロングを誘う『のんびりと、』『リアルメランコリー』を歌い上げた。そして今年の3月『LAST V STANDiNG vol.2』で特別verが披露されたのが記憶に新しい、さめのぽき作詞作曲の『mirror』を披露。瞬きをすると見逃してしまうスピードで突如旧衣装のAZKiが現れる。さめのぽきらしい壮大でメロディアスな楽曲と、AZKiの追真の歌唱がひりひりと緊張感すらも漂わせた。
「AZ輪廻がAZKi最後のライブだったかもしれない」。どんなライブでもこれが最後かもしれないと言い聞かせ全力でライブに挑むと語ったAZKi。『いのち Acoustic ver.』の披露と同時に、時が止まったかのような緊迫感が会場を覆い尽くした。数ある楽曲の中でも熱狂的な人気を誇る『いのち』は、AZKiのダイレクトな心情を訴えかけるキラーチューンの一つ。”いのち”に対するAZKiの震えと叫びが会場を飲み込んだ。そして『いのち』を生み出した瀬名航氏の楽曲『青い夢』も続けて披露。夢を与える存在が夢という概念に対して現実を訴えかけ葛藤する本楽曲は、『いのち』同様叫びにも似たAZKiの歌声が会場内、そして視聴者の心に鳴り響いた。
ふんわり優しい青のライトが背景に浮かび上がったかと思えば、続けて『世界は巡り、やがて君のものになる』のイントロが流れ出した。同時に、光が降り注いだかのような優しいAZKiの歌声が神秘的な音楽と並走する。感情の高低差に度肝を抜かれながらも、感情を押し殺して丁寧に歌い上げる姿に釘付けになった。ゆったりと横に揺れるAZKi。曲が終盤に近づくにつれて徐々に感情が顕になるのがわかるくらい、優しい歌声から力強さが増す。儚げな目で歌う姿が多く映し出され、声だけではなく表情からAZKiの気持ちの入れようがわかるようなカメラワークが印象的だった。
「ここからが後半戦!」と笑顔で告げるAZKiの言葉に動揺を隠せないでいると、怒涛のアッパーチューンが容赦なく披露された。『Eternity Bright』『Intersection』を皮切りに、再び映像演出が画面をジャックする。カラフルで目まぐるしい光たちがAZKiを彩るように暴れまわる。攻撃的なようでしっかりと楽曲のイメージを具現化したエフェクトが視界を遮る、かと思えば上着を脱いだAZKiの姿が交互に映し出さる。まるでMVを見せられているかのようなステージングと、格好良くも可愛げある歌声のコンビネーションは圧巻だった。
ギターの音が聴こえだすと、本能的に家に帰ってきたかのような安心感を得られるのがAZKiのライブだ。『AZKi BLaCK』の始まりに、これまでのライブがフラッシュバックするかのように懐かしさすら覚える。AZKi BLaCK第6弾としてリリースされた『ERROR』はサビの転調でAZKiの高音が炸裂、静かな始まりとは裏腹にAZKiのダークな側面をロックテイストに表現した『I can’t control myself』、続く『ひかりのまち』は、AZKi BLaCKのリードトラックとして絶大な人気を誇っている。それぞれ黒に染まったAZKiがスリリングに飛ばしながらも、感情の入れ具合が絶妙で、荒々しくも心地良いバンドサウンドが空間を支配した。
「一人でいる時間は、どうしよう、どうしようと思うことがあって……。」とアンコール前のMCでは、自粛期間中に募る不安を打ち明けた。「でもこうやってライブを楽しめたことがなにより……。」と笑いを誘いながらも、最後に向けての意気込みを語った。ラストスパートに向けて期待が膨らむ中、AZKiの軌跡を辿った『フロンティアローカス』からライブがスタート。ラストのサビで、旧衣装のAZKiが再び現れる粋な演出が行われ、最後には開拓者とのシンガロングで一つになる『from A to Z』を披露。配信では開拓者の声は聴くことができないが、AZKiや開拓者達にとってこれまで何度もライブで声を重ねてきた楽曲ということもあって、不思議と寂しさは感じなかった。
アンコールで開拓者からのAZKiコールが流れるサプライズ。まさかのサプライズに戸惑いを隠せないAZKiだが、ライブ開始から約2時間歌いっぱなしとは思えない未曾有の体力で『Fake.Fake.Fake』『嘘嘘嘘嘘』『自己アレルギー』の3曲を立て続けに熱唱。声量も落ちていなければ、抑揚のある気持ちのこもった歌も健在だ。特に無数の鎖が画面を覆い尽くす『嘘嘘嘘嘘』では、映像に負けないくらいの存在感を、気迫のこもった歌声で圧巻した。すでに21曲を歌い上げているところから、アンコールで開幕3曲歌う姿には、AZKiやAZKiチームの意地を感じた。
「残り2曲、全力で歌いたいと思います」の一言で、ライブの終わりを意識することになる。開拓者たちの無念な叫びが聞こえそうなタイミングで、『without U』のアナウンス。1stフルアルバムのリードトラックであり、AZKiが開拓者に向けたメッセージ性の高い楽曲だ。言葉一つ一つを丁寧に、腕を動かしながら大胆に歌い上げるAZKiの姿が印象的だった。
最後の曲を前に重大発表が解禁された。2ndフルアルバム『Re:Creating world』制作決定と新衣装プロジェクトが始動。2020年様々な障壁がアーティストを脅かす中で、AZKiらしいアクティブさは健在だということが認識できる発表だった。
『Creating world 2020ver.』が始まる前に「AZKiの最初の曲で、今日最後の曲。」と語るAZKiの声や表情に、寂しさを感じなかった。もはや全てを出し尽くしたと言わんばかりの堂々たるパフォーマンスを目の前に、AZKiだけではなく開拓者、スタッフ全員の思いを歌に乗せているかのような気持ちになる。リアルではなくとも、画面の外にいる視聴者全員が目の前にいるかのように歌い上げる姿に、AZKiの謙虚さや優しさ、人柄自体が歌に厚みを出しているのがわかった。AZKiのトレンドカラーでもある赤い光が緻密に飛び交う演出が、フィナーレを華やかに装飾した。
リアルライブが困難な状況下で、配信で代替ライブが行われるのがマストになってきている。それはVTuberも例外ではない。今回のAZKiのライブは、計算尽くされたカメラワークによってライブ感が鮮明に演出されていた、と筆者は感じた。曲の間奏や、ラストのサビ前の盛り上がりを切り抜くように、色んな角度から映し出す演出がとにかく緻密だ。VJが作り出す非現実感と、カメラワークによるリアルさの組み合わせに、配信でしかやれないことを徹底的に全力でやるチーム全体のプロフェッショナルな一面に感銘を受けたライブだった。
◎取材・文 / 森山ド・ロ
( Twitter: @doro0157 )
SETLIST(セットリスト)
1.Overture(SE)
2.ちいさな心が決めたこと
3.虹を駆け抜けて
4.さよならヒーロー
5.フェリシア
6.猫ならばいける
7.Midnight Song
8.Take me to Heaven
9.Reflection
10.のんびりと、
11.リアルメランコリー
12.mirror
13.いのち Acoustic ver
14.青い夢
15.世界は巡り、やがて君のものになる
16.Eternity Bright
17.Intersection
18.ERROR
19.I can’t control myself
20.ひかりのまち
21.フロンティアローカス
22.from A to Z
EN1.Fake.Fake.Fake
EN2.嘘嘘嘘嘘
EN3.自己アレルギー
EN4.without U
EN5.Creating world 2020ver.
<AZKi 5th LIVE R.I.P AZHOOD 公演概要>
▼配信日時
2020年7月25日(土)19:00~
※公演公式ハッシュタグ : #開拓者全滅
【AZKi プロフィール】
仮想世界から音楽を通じて一人一人と繋がりたい。
時間や場所、空間を飛び越えて出会うたくさんの愛や
輝いた才能と一緒に、新しい世界を創るために転生した
仮想世界の伴走する歌姫。
(2020年7月現在 モデリング : 加速サトウ / 衣装原案 : 焦茶)
ポップさと透明感のある楽曲シリーズ「AZKi WHiTE」
BiSH、BiS、GANG PARADE、EMPiRE等の楽曲を手がけるSCRAMBLESが全面プロデュース・攻撃的で疾走感のある楽曲シリーズ「AZKi BLaCK」等の楽曲を展開している。
2019年2月14日にはバーチャルタレントサポートプロジェクトupd8に加入。
2019年5月19日には、VTuberときのそらや白上フブキ等が所属するVTuber事務所「ホロライブ」内の音楽活動に特化したバーチャルアーティストのプロデュース・マネージメントを行う音楽レーベル「イノナカミュージック」に所属を発表。
2018年12月よりオリジナル楽曲12曲連続リリース、
2019年11月12日には初のフルアルバム『without U』をリリースするなど楽曲を積極的にリリースしながら、5回のソロライブを開催しいずれも大成功に収めている。感動を生むライブパフォーマンス、熱量の高いファンの生み出す一体感が注目されているVsingerである。
2020年7月時点で、AZKiのYouTubeのチャンネル登録者数は15万を突破。
近年広がりつつあるバーチャルYouTuberシーン発の音楽アーティストとして、AZKiは注目を集めている。
・YouTube:http://ur0.work/Nu8M
・Twitter:@AZKi_VDiVA
・note : https://note.mu/azkinote
・公式HP : http://azki-official.com/
・pixiv FANBOX『FRONTLiNE』 : https://www.pixiv.net/fanbox/creator/46440607
・公式オンラインストア : https://store.azki-official.com/